「キュービクルってなんだろう?」
そんな疑問を持ったことがある方は少なくないでしょう。建物の裏側に設置された、少し無機質で武骨な箱のような設備。特にビルや工場、学校、病院などで見かけることが多く、「触れてはいけないもの」という印象を持たれがちですが、実はこのキュービクルは、私たちの暮らしを支える非常に重要な電気設備です。
この記事では、電気の専門知識がない一般の方でも理解できるよう、「キュービクルの基礎知識」をわかりやすく解説していきます。これから建物の管理を任される方や、テナント開業を検討している方、または見積もりの中にある“キュービクル”の文字を見て不安に感じた方など、ぜひ参考にしてみてください。
目次
キュービクルとは?身近にあるけど知られていない重要な設備
キュービクルという言葉自体、あまり聞きなれないかもしれません。しかし実際には、多くの建物に設置されており、私たちの生活の中でも欠かせない存在です。
特に、オフィスビルや大型店舗、工場など、電気を大量に使用する建物では、ほぼ必ずと言ってよいほど設置されています。
まずは、キュービクルとはなにかを説明します。
そもそもキュービクルってなに?
キュービクルとは、簡単にいうと「高圧の電気を安全に使えるようにするための設備」を一つの箱にまとめたものです。正式には「キュービクル式高圧受電設備」と呼ばれますが、一般的には略して“キュービクル”と呼ばれることが多いでしょう。

電気は、発電所から私たちのもとに届くまでに長い距離を移動しています。その際、なるべく効率よく送電するため、送電中は電圧を高くしているのです。
しかし、そのままの高圧電気を建物で直接使用することはできません。そこで途中で電圧を変換し、最終的に100Vや200Vといった低圧電気にして一般家庭に送られます。
オフィスビルや大型店舗、工場など、電気を大量に使用する建物では、電力会社との契約が異なり、高圧(6,600V)の電気をそのまま受電する決まりです。
そこで登場するのがキュービクル。キュービクルの中には、電圧を下げるための変圧器(トランス)や、安全に電気を分配するための配電盤、保護装置などが一式揃っており、建物内で使用可能な100〜200ボルト程度の電気に変換して供給します。
キュービクルの必要性と設置対象
「うちの会社にはキュービクルなんてないけど?」という方もいるかもしれません。たしかに、一般の住宅や小規模な事業所にはキュービクルは設置されていません。なぜなら、使用電力がそれほど多くない場合は、電力会社がすでに適切な電圧に変圧した電気を供給してくれているからです。
一方、電力使用量が大きい中規模〜大規模な施設では、電力会社との契約形態が異なり、高圧のまま電気が供給される「高圧受電契約」が採用されます。そのような施設では、電力を自分たちで扱いやすい電圧に変換する必要があるため、キュービクルの設置が不可欠となるのです。
使用電力 | 受電方式 | 受電電圧 |
50kW未満 | 低圧受電 | 100/200V |
50kW以上2000kW未満 | 高圧受電 | 6,600V |
2000kW以上 | 特別高圧受電 | 7,000V超 |
上記は、一般的な使用電力ごとの受電方式の区分です。高圧受電が必要となる50kWは、大きめのコンビニ程度でも超過することがある使用電力量で、事業用としてはそれほど大きな使用電力ではありません。
実際、スーパーやコンビニ、オフィスビル、マンション、医療施設、工場など、多くの事業用建物では、高圧受電契約に基づいてキュービクルを設置・運用しています。
また、最近では、再生可能エネルギーの導入や電気自動車の急速充電設備の拡大に伴い、キュービクルの設置が再注目されています。
キュービクルの内部構造とその役割

キュービクルは単なる箱ではなく、その内部には複数の重要な装置が組み込まれています。主な構成要素は以下のとおりです。
機器名称 | 役割 |
変圧器(トランス) | 電圧や電気の種類を変換する |
高圧遮断器高圧負荷開閉器 | 必要に応じて高圧電流の切断を行う。過電流や短絡事故時の保護の役割も持つ |
電力量計・電流計・電圧計 | 使用電力量や電流・電圧を測定する |
低圧配電盤 | 低圧に変換した電気を各電気機器に配電する |
まず、中心的な役割を果たすのが「変圧器(トランス)」です。これは、高圧電力を建物で使えるように電圧を下げる装置で、キュービクルの中でももっとも重要なパーツといえます。
次に「高圧遮断器」や「高圧負荷開閉器」などの保護機器があります。これらは、過電流やショート(短絡)が発生した際に自動的に電気を遮断し、設備や人を守るための装置です。また、雷の直撃などによって過剰な電流が流れた場合にも、適切に対処できるようになっています。
さらに、電圧・電流・電力量などを計測するための機器が取り付けられており、キュービクルの状態や消費電力を監視することができます。低圧に変換された電気は、低圧配電盤(電灯盤・動力盤)を通じて各電気機器に送られます。
これらすべての機器が、金属製のボックスの中にコンパクトに収められており、屋外に設置する場合でも耐久性が高く、悪天候や埃・虫の侵入にも耐えられる構造となっています。
設置・運用には専門的な知識と法的ルールに基づいた管理が必要
キュービクルの設置は、電気設備の中でもとくに専門性の高い分野です。電気事業法や労働安全衛生法など、複数の法律に基づいた設計・工事・点検が求められます。
キュービクルは高圧の自家用電気工作物であるため、各種技術基準に適合させ施工は電気工事士の中でも上位の第一種電気工事士が行わなければなりません。
また、工事が完了した後も、定期的な点検・管理が法律で義務づけられており、これを怠るとコンプライアンス違反となるだけでなく、感電や火災といった重大な事故のリスクが高まります。
- 技術基準の遵守・維持
電気事業法第39条に基づき、キュービクルが電気設備技術基準に適合していることを維持しなければなりません。
- 保安規定の制定・届出・遵守
電気事業法第42条により、保安体制や保安業務の内容をまとめた保安規定を定め、経済産業省(管轄の産業保安監督部)へ届け出、遵守する義務があります。
- 電気主任技術者の選任・届出
電気事業法第43条により、キュービクルの保安監督責任者となる電気主任技術者を選任し、届け出る必要があります。自社で選任できない場合は外部委託も可能です。
- 定期点検・メンテナンス
月次点検、年次点検など、定期的な保安点検が義務付けられています。
- 設置・変更時の届出
新たに設置する場合や大規模な変更を行う場合は、事前に関係官庁へ届出が必要です。
一般的には、設置後の管理は「外部委託」が多く、電気主任技術者に点検業務を依頼することで、安全な運用が確保されます。
キュービクルの設置費用と維持コスト
キュービクルは大型の電気設備であり、法令に基づいた定期点検なども必要なため、設置や維持にはコストがかかります。ここで、キュービクルの設置費用と維持コストについて見てみましょう。
キュービクルの設置費用
キュービクルの設置費用は、主にキュービクル本体の価格と設置工事費に分かれます。キュービクル本体の価格は使用電力に概ね比例します。一般的な相場は以下の通りです。
最大電気容量 | 相場価格 |
100kW | 200万円 |
300kW | 600万円 |
500kW | 1,000万円 |
設置工事に金額は、建物の規模や設置環境によって大きく異なります。そのため一概にいくらとは言えませんが、目安としてキュービクル本体価格の100~200%程度を見込んでおくとよいでしょう。
ただしこれはあくまで一例であり、必要な変圧容量が大きくなったり、付加機能が付いたりすると機器も高額になり、特殊な設置条件では設置工事費用もさらに増加します。また、電力会社との接続工事費用も別途発生するケースがあります。
Hキュービクルの維持コスト
キュービクルは法令により、主任技術者の選任や定期点検の実施といった保守体制の確保が義務付けられています。自社に専任の技術者がいない場合は、保安協会や保守会社等と契約して、これらの業務を委託しなければなりません。
委託費用は、小規模なキュービクルで年間10〜30万円程度が一般的です。また、点検で不具合が見つかり部品を交換したりすると、追加費用が発生することがあります。
したがって、初期費用だけでなく長期的な運用コストも見越したうえで計画を立てることが非常に大切です。
H3 キュービクルの耐用年数と更新費用
キュービクル自体の耐用年数は約20年です。キュービクルの更新では、新設と同規模の費用が必要となります。
そのため、キュービクルの点検結果なども確認しながら、早めに更新計画を立て、予算を確保しておいた方が良いでしょう。
キュービクルは見えないところで電気の安全を守る設備
この記事では、「キュービクル基礎知識」というテーマのもと、キュービクルとは何か、どのような役割を果たしているのか、設置や管理にはどんな知識が必要なのかについて詳しく解説してきました。
私たちが何気なく使っている電気。その背後には、こうした高圧電力を適切に管理し、安全に使えるようにしてくれているキュービクルの存在があります。普段はあまり意識することのない設備かもしれませんが、建物を安全・快適に運営するうえで、なくてはならないインフラなのです。
特に50kW以上の電力を使用する場合はなくてはならない設備ですから、知らないからと言って避けて通れるものではありません。
もし、これから建物の管理や新規店舗の開業を検討している方で、見積書に「キュービクル設備」などと書かれていて戸惑った場合は、ぜひこの記事の内容を思い出してください。