キュービクルとフェンスの適正な離隔距離とは?法律上の規定と実用面から解説

キュービクルは、工場やビル、商業施設、病院、学校など、多くの施設において電力の安定供給を支える重要な設備です。これらの施設では、安全性や防犯の観点から、キュービクル周囲にフェンスや囲いを設置するケースがあります。

キュービクルの周囲にフェンスを設置する場合に重要なポイントのひとつが、法律上の規定を守り、実用面で最適な「離隔距離」の設定です。

離隔距離が不十分な場合、保守点検作業の妨げとなり、結果的に設備の安全性や信頼性を損なう可能性があります。一方で必要以上に広い範囲をフェンスで囲むことは土地の有効利用の面から大きな損失です。

この記事では、キュービクルとフェンスの適正な離隔距離について、法律上の規定と実用面から解説します。

キュービクルをフェンスで囲む理由

法的にはキュービクルをフェンスで囲む必要はありません。しかし、実際には多くの施設でキュービクルの周囲にフェンスを設置しています。

キュービクルをフェンスで囲む理由は大きく2つあります。

  • 第三者がキュービクルに接触することを防ぐため
  • キュービクルの保守を行う作業員が転落することを防ぐため

それぞれの理由について簡単に説明します。

第三者がキュービクルに接触することを防ぐため

キュービクルは、必要な電気機器が堅固な金属箱に納められており、扉には錠がついているため、第三者が近づいても直ちに危険はありません。

とはいえ、高圧電気を扱う設備であるため、感電や火災といった重大な事故リスクを内包していることは事実です。メンテナンスで一時的に扉を開けているところに近づかれたり、老朽化によりキュービクルの外に電気が漏れたりといったリスクは否定できません。

高圧電流による感電は致命的な結果をもたらす可能性が高く、また、絶縁不良や地絡事故により発生するアークが周囲の可燃物に引火して、火災を引き起こす危険性があります。

そのため、第三者、特に小さな子どもが近寄ることができる場所では、キュービクルをフェンスで囲むことが推奨されるのです。

この場合のフェンスさは、人が容易に乗り越えられない必要があるため、1.8メートル以上の高さのものを設置します。

キュービクルの保守を行う作業員が転落することを防ぐため

キュービクルを屋上などの高所に設置する場合、保守を行う作業員が転落するリスクがあります。そこで、キュービクルから屋上の端部まで十分な離隔距離が確保できない場合は、転落防止のためにフェンスを設置します。

一般的にキュービクルの周囲に3メートル以上のスペースが確保できない場合は、転落の危険のある場所に高さ1.1メートル以上のフェンスを設置します。

キュービクルとフェンスの適正な離隔距離

キュービクルとフェンスの適正な離隔距離を考える際に重要なポイントは3つです。

  1. 法律・条令等で定められた離隔距離
  2. 日常的な操作・定期点検時に必要なメンテナンススペース
  3. 機器の入れ替えに必要な施工スペース

項目ごとに詳細を解説します。

法律・条令等で定められた離隔距離

キュービクルとその他の構造物との離隔距離は、電気事業法や消防法などの法令によって定められています。

電気事業法及び関係法令では、直接的に規定していないものの、電気設備を適切に保つことが定められており、高圧受電設備規程(JEAC 8011)に定められた離隔距離を確保することが求められます。

操作を行う面(扉のある面)扉幅と保安上有効な距離を合わせた距離以上※扉幅が1m未満のときは1m以上
操作は行わないが点検を行う面0.6m以上
換気口がある面0.2m以上
溶接などの構造で開閉できない面規定なし

操作を行う面では、扉幅と保安上有効な距離を合わせた距離以上を確保しなければなりません。保安上有効な距離とは、人の移動に支障がない距離と定義されたおり、扉を開けた状態で作業員が通れる程度の空間があればよいと考えるとわかりやすいでしょう。

扉が付いていなくても、ビス止めなどで点検時に開けることができる面は0.6メートル以上、換気口がある面は空気が通るように0.2メートル以上の離隔距離が必要です。ただし、フェンスの場合、空気が抜ける構造であれば換気口との離隔距離は免除できると考えてよいでしょう。

火災予防条例では、一般的に建物、可燃物等から3メートル以上の離隔距離が必要です。しかし、不燃性のフェンスであれば、適用されません。そのため、キュービクルを囲むフェンスは金属製など不燃性のものを選択します。

日常的な操作・定期点検時に必要なメンテナンススペース

法令等で定められた離隔距離は最低限のものです。実際の運用ではより余裕を持った離隔距離を確保した方が良いでしょう。

確保する離隔距離は周囲の環境やキュービクルの仕様、管理上の都合などで変わってきます。一般的にはキュービクルの周囲1.5メートル程度を確保することが望ましいでしょう。1.5メートルあれば、標準的なキュービクルでは、扉を開けた状態でも人が通れるスペースを確保できると考えられます。

また、屋外キュービクルでは、筐体が劣化し、雨風が浸入する恐れがあります。そのため、点検の際にはキュービクルの全面を目視できるように、開閉できない面もスペースを確保することをおすすめします。

機器の入れ替えに必要な施工スペース

キュービクル内の機器が劣化・故障した場合、対象の機器だけを交換して修理することになります。キュービクル内には変圧器をはじめ、大型の電気機器もあるため、十分な施工スペースがないと入れ替えができません。

変圧器を入れ替える場合には、対象の扉の前面に3メートル程度のスペースは欲しいところです。しかし、日常的に使用しないスペースを常時確保しておくことは無駄と考える方も多いでしょう。その場合は、必要に応じてフェンスの取り外し・再取り付けを行うことになります。

工事費用や土地の有効利用などを元に、どこまでのメンテナンススペースを確保すべきか検討しましょう。

キュービクルとフェンスの離隔距離はしっかり確保!

キュービクルと周囲を囲むフェンスとの離隔距離を確保することは、法律遵守、技術的安全性、実用性の三要素を同時に満たす必要がある重要な課題です。法令等で定められた最小離隔距離は、感電や火災といった重大事故を防ぐための最低限の基準であり、これを下回る設置は法的に許容されません。

しかし、単に法定基準を満たすだけでは不十分です。実際の保守作業の効率性、緊急時の対応能力、長期的な維持管理の容易さを考慮した場合、基準を上回る余裕のある設計が推奨されます。

土地の有効利用という面では、フェンスの範囲はなるべく狭くしたいものですが、安全に関る重要な問題ですので、ぜひ妥協せず、キュービクルとフェンスの離隔距離はしっかり確保するようにしてください。