小規模の(特高以下で)高圧受電が必要な箇所には、ほぼキュービクル式高圧受電設備が設置されています。
しかし、キュービクルは高圧受電設備の一種であり、高圧受電設備がすべてキュービクルというわけではありません。
一般的にありふれていても、その明確な位置づけが分かりづらいキュービクル式高圧受電設備の具体的な仕様について解説します。
「キュービクル」はJISで規定されている
そもそもキュービクルというのは略称で、JIS C4620:2018に規定されている「キュービクル式高圧受電設備」が正式名称です。
JISでキュービクル一式が規定されているため、それだけ一般的に流通している受電システムということが理解できます。
街を見ると小規模な建物で、高圧受電が必要な箇所には必ずといっていいほどキュービクルが設置されています。
JISによるキュービクルの適用範囲は、公称電圧6.6kV、周波数50または60Hz、系統短絡容量12.5kA以下、受電容量4000kVA(力率0.8とすると契約電力で3200kW)以下の受電設備をキュービクルが使用できる範囲としています。
ただし、一般的には電力会社との契約電力が2000kVA以下で契約するケースがほとんどです。
公称電圧は高圧受電の一般的な受電電圧になります。
系統短絡容量、受電容量は、かなり大きな容量までキュービクルで受電が可能ということになります。
契約電力としては50kW以上となると電力会社から高圧受電の要請がされます。
この基準をはるかに超える受電容量までがキュービクルで製作可能となります。
このため、高圧受電設備の多くがキュービクルとなり、多くの人が高圧受電設備といえばキュービクルと考える要因にもなっています。
JISに基づくキュービクルの設計、設置、運用に関する基本的な要件や基準
JIS(日本工業規格)によるキュービクル式高圧受電設備に関する規定についての表を以下に示します。この表では、主にJISに基づくキュービクルの設計、設置、運用に関する基本的な要件や基準をまとめています。
項目 | 規定内容 | 詳細説明 |
---|---|---|
規格番号 | JIS C 4620 | キュービクル式高圧受電設備に関する規格。 |
適用範囲 | 高圧受電設備(7,000V以上の電圧を受電する設備) | 産業用、商業用、公共施設などの高圧受電に使用。 |
設計基準 | 機器の耐圧試験、絶縁抵抗、耐熱性 | 機器の安全性と信頼性を確保するための基準。 |
構造要件 | 防水、防塵、耐震設計 | IP規格に基づく防水・防塵性能、耐震性を考慮。 |
寸法基準 | 規定されたサイズでの設計が推奨 | 設置場所に応じた標準的なサイズ。 |
保護装置 | 過電流保護装置、地絡保護装置、漏電遮断器の設置 | 設備の安全を確保し、故障時に被害を最小限に。 |
電圧試験 | 工場出荷前および現地での高圧耐電圧試験の実施 | 設置後の動作確認を含む耐電圧試験。 |
定期点検 | 年1回以上の点検が推奨 | 絶縁抵抗の測定、目視点検、試運転など。 |
設置環境 | 屋内設置が基本、屋外設置の場合は防水・防塵仕様 | 温度、湿度、振動、衝撃などの環境条件を考慮。 |
表示ラベル | 電圧、定格電流、製造年月日、製造番号の明示 | 安全性の確保とメンテナンスの効率化のための表示。 |
安全対策 | 二重絶縁構造、接地、アースの適切な配置 | 感電や火災のリスクを低減するための対策。 |
メンテナンス要件 | 部品交換時期の明示、交換部品の使用規格の遵守 | 劣化部品の定期交換による設備寿命の延長。 |
遮断器の要件 | 定格遮断容量に基づく適切な選定が必要 | 過負荷や短絡時に迅速に遮断できる能力を持つ。 |
冷却方式 | 自然空冷または強制空冷 | 設備の放熱対策として適切な冷却方式を選択。 |
注意点:
- 設計および施工基準の遵守:JIS C 4620などの規格を遵守することが、キュービクル式高圧受電設備の安全性と信頼性を確保する上で重要です。
- 定期的なメンテナンス:設備の長期的な運用において、定期点検と適切なメンテナンスが不可欠です。法定点検のスケジュールを守り、必要に応じて部品を交換することが推奨されます。
- 環境への適応:設置場所の環境条件(温度、湿度、振動など)に応じた設計と選定を行い、必要に応じて追加の防護策(防塵、防水など)を講じることが重要です。
JIS規格は、日本国内での高圧受電設備の設計と運用における信頼性と安全性を確保するための重要な指針です。これらの基準に基づいた設備の設置・運用を行うことで、事故防止と設備の長寿命化が期待できます。
キュービクルとしてJISで規定しているもの
では、JISの規定ではどのようなものがキュービクルである、とされているのでしょうか。
具体的なJISの規定について見ていきましょう。
キュービクル
JISではキュービクルとは、「高圧の受電設備として使用する機器一式を一つの外箱に収めたもの」とされています。
高圧の受電設備を一つの金属製の箱に収めたものをキュービクルとしています。
この基準だけであれば、高圧受電設備すべてがおおよそキュービクルとなってしまいますので、以降の基準で具体的な必要な機器を規定しています。
受電箱、配電箱
キュービクルは受電箱と配電箱に分かれている必要があるとしています。
受電箱とは、電力需給用計器用変成器、主遮断装置など、受電に必要な機器一式を一つの箱に収めたものです。
主遮断装置は、高圧の活線状態でも確実に遮断が可能なCB型の設置が義務付けられています。その他メンテナンスに必要な断路器や高圧限流ヒューズなど、設置後の法定点検や停電作業時に電力会社の受電から切り離せる構成のもの、過電流時に確実に受電側から切り離すことができる構成のものが求められています。
これは、他の受電設備でも同様です。キュービクルとするにはこれらが一つの箱に収められて受電箱としている必要があります。
配電箱は、変圧器、高圧配電盤、高圧進相コンデンサ、直列リアクトル、低圧配電盤などの受電箱から供給された電力を低圧に切り替えるための変圧器や、変圧器が複数ある場合は高圧配電盤、力率改善のための進相コンデンサ、直列リアクトル、変圧器で低圧化された電力を各末端に分岐するための低圧配電盤などが搭載されていることが求められています。
これらは、受電容量によって変圧器の個数が変わるなどで複数の箱が連接される可能性もあります。
大型のキュービクルになると10個ほどの箱が並ぶケースも出てくるでしょう。
この場合、置く場所の検討なども必要となってきます。
JISの規定を簡単に説明しましたが、基本的には電気設備技術基準などの関連法規に基づいて、受電設備を鉄製の箱に収めているものがキュービクルということができるでしょう。
キュービクルのJIS制定は昭和43年
キュービクルのJIS制定には長い歴史があります。
昭和43年、それまで高圧受電設備の設置方法がバラバラだったものを、統一基準を設けることで、より需要家による停電事故や保守点検時の感電事故を防ぐ目的でキュービクルの基準が制定されました。今から50年以上前のことになります。
それまでは、関連法規に基づき各受電設備の設計者のオリジナルによる設計のため、基準を満たしていなかったり、点検時の操作が分かりづらく、点検時の感電事故などの発生の危険もありました。
これらの状況を改善するために、受電設備の統一基準を設け、キュービクルとしたことでキュービクルは普及をしていきます。
これまでの説明から、街中のビルの多くがキュービクルを導入していることで、受電設備といえばキュービクルというイメージにつながるようになったのです。
キュービクルではない高圧受電設備はどんなもの?
高圧受電設備はすべてキュービクルではないとお話ししましたが、キュービクルではない高圧受電設備はどのようなものがあるのでしょうか?
露出型の受変電設備を部屋で囲ったもの
受電設備をキュービクルのような外箱に収めずに露出型の形でそのまま設置されていて、部屋や、建屋で囲って収めるという構成のものはキュービクルとは言いません。
これは受変電室のような形の構成で、古い設備や容量の大きな設備に見られる特徴です。
古い設備はキュービクルが普及する前の場合も考えられますが、受電容量の大きな受変電設備は、外箱で囲ってしまうとJIS基準にもある内部温度の上昇基準を超過してしまいます。そのため、部屋全体で換気扇などを設けて受変電設備の冷却を行います。
この場合、キュービクルでは外箱の扉を施錠すれば人通りが多いところにも設置可能でしたが、受変電室そのものの入り口に施錠をし、部外者の侵入を防ぐ必要があります。
屋外露出型の受変電設備
容量のかなり大きな電力会社の変電所なのにある、屋外に変圧器などの大型機器がそのまま置かれているケースです。
これらは大規模工場など敷地が広く取れて、受電容量が大きな設備に見られます。
冷却を考慮せずに受変電設備の配置ができるため、特別高圧設備などの高圧設備よりさらに容量の大きな設備に見受けられます。
これらの設備も外箱で囲っていないため、キュービクルとは言えません。
JISにはその他細かい規定もありますが、おおよそキュービクルとキュービクルでないものの違いがお判りいただけたかと思います。
まとめ
キュービクルは高度成長期に、それまでは小規模な電力需要しか必要なかった各地域のビルや工場に、より効率的に安全に高圧受電設備に設置を行えるようにしたものです。
今日、多くの高圧受電設備はキュービクル式を採用しており、その基準の有用性が証明されています。
キュービクルの基本となるJISの基準はインターネット等でも閲覧可能ですので、その内容を抑えておくと今後の業務の際の参考にもなるでしょう。
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