キュービクルの設置には安全性と機能性の観点から一定の離隔距離が必要となります。この記事では、キュービクルで離隔距離を設ける重要性や法的規制、そして実際の管理・運用上の注意点について詳しく解説します。
キュービクルの離隔距離
キュービクルの離隔距離について、設置時に考慮すべき要件を以下の表にまとめました。この表では、キュービクルの安全な運用を確保するための離隔距離基準を示しています。
項目 | 推奨離隔距離 | 説明 |
---|---|---|
前面作業スペース | 最低1.2m以上 | メンテナンスや点検作業時に十分な作業スペースを確保するため。 |
側面作業スペース | 最低0.6m以上 | 側面からのアクセスが必要な場合、適切なスペースを確保する。 |
背面作業スペース | 最低0.6m以上 | 背面にもアクセスが必要な場合、スペースを確保。 |
他のキュービクルとの間隔 | 最低1.2m以上(前面が対面する場合) | 隣接するキュービクルとの間に適切なスペースを設け、作業の安全性を確保。 |
壁や障害物との間隔 | 最低0.8m以上 | 壁や障害物からの適切な離隔を確保し、熱の放散や作業スペースを確保する。 |
出入口付近の離隔 | 出入口から最低1.5m以上のスペース | 緊急時の避難経路を確保し、迅速な脱出を可能にするため。 |
上方のクリアランス | 最低1.8m以上 | 通気の確保や作業者の安全のため、上方に十分なクリアランスを設ける。 |
通路の幅 | 最低1.2m以上 | キュービクルの周囲を歩行するための通路幅を確保。 |
防火壁との間隔 | 防火壁から最低0.5m以上 | 火災時の安全確保のため、防火壁との間に離隔を設ける。 |
配電盤との離隔 | 配電盤の前面に最低1.2m、側面に0.6m以上のスペース | メンテナンスや操作のためのスペースを確保。 |
この表は、キュービクルの安全な設置を確保するための離隔距離の基準を示しています。適切な離隔距離を確保することで、点検やメンテナンスが容易になり、作業員の安全を守ることができます。また、火災や感電事故のリスクも低減されます。設置場所の状況に応じて、さらに詳細な規制や基準に従うことが推奨されます。
キュービクルに離隔距離が必要な理由
キュービクルには適切な離隔距離を確保することが不可欠です。主な理由として以下のものがあげられます。
- 漏電や火災などが発生した際に周囲に被害を及ぼさないため
- 保守点検や日常の操作時に技術者が作業できるメンテナンススペースを確保するため
- キュービクルの設置時や老朽化した機器の入れ替え時に、変圧器などを出し入れするスペースを確保するため
- 換気や放熱を効率的に行なうため
- 消防法上の規定を順守するため
それぞれの理由について簡単に説明してみましょう。
火災などの事故の波及を防ぐため
キュービクルは高電圧の電気を扱う設備であるため、様々な事故のリスクがあります。そのため、設置にあたって安全性の確保は最優先事項です。
老朽化や小動物の侵入などにより短絡や漏電が発生すると、発火して火災に発展する可能性もあります。キュービクルと建屋や他の工作物が近接していると延焼の原因となり、万が一の発生したときの被害は甚大です。
適切な離隔距離を設けることで、事故が発生した際に周囲への被害を軽減することができます。
メンテナンススペースを確保するため
キュービクルの適切な運用と維持管理のためには、十分なメンテナンススペースが必要不可欠です。
キュービクルを操作するためには最低限、周囲に人が通れる程度の空間を設け、さらに前面は扉を開放し技術者が作業できる空間が確保できなければなりません。
メンテナンススペースが不十分だと、満足に作業ができないばかりか、無理な体勢で作業したり、高圧充電部などの危険箇所と距離を取れなかったりすることで、感電などの事故にもつながります。
適切な離隔距離を確保することで、日常の保守点検などの作業を安全かつ効率的に行うことができます。
設置や修理に必要なスペースを確保するため
キュービクルの中には変圧器など大型の電気機器が据え付けられています。キュービクルの設置や修理を行う際は、これらの機器を出し入れするスペースが必要です。
屋外であれば、重機を使用して機器を組み込んだまま設置できるケースもあります。しかし、だからといって無理に設置すれば老朽化した変圧器の入れ替えなど、必要な修理ができず後々困ることになります。
放熱を効率的に行なうため
電気エネルギーを100%すべて利用することは不可能であり、必ず一定のロスが発生します。この無駄になったエネルギーは騒音や熱となって放出されます。
キュービクル内は変圧器などからでる熱がこもるため、その熱を外部に排出することが必要です。放熱を効率的に行なうためには、キュービクルの周囲に熱を逃がすことができる空間がなければなりません。
これらの理由から、キュービクルの離隔距離は安全性と機能性の両面で極めて重要な要素となっています。
法令上必要な離隔距離
「電気事業法」などの電気に関係する法律や国(経済産業省)が定める「電気設備の技術基準」では、キュービクルの離隔距離は明確に定められていません。しかし、キュービクルは高電圧を扱う危険性の高い設備であることから、火災予防条例によって離隔距離が定められています。
また、電気事業法では自家用電気工作物の安全な運用を求めており、キュービクルを設置すると保安規定などを定めて届け出なければなりません。その運用の基準となるのは電気技術規定(JEAC)などの民間規定です。高圧受電設備規程(JEAC 8011)にはキュービクルの離隔距離が定められており、原則としてこの規定を守る必要があります。
火災予防条例で定められた離隔距離
各地方自治体の火災予防条例においても、キュービクルの離隔距離に関する規定が設けられています。
条例は、各地方自治台が定めるものであり、地域の特性や過去の事故事例などを考慮して制定されているため、自治体によって多少の違いがあります。しかし、国からの通達や自治体同士の調整により同様の内容となっている場合も多く、キュービクルの離隔距離は全国の多くの自治体で同様の規定となっています。
ここでは、一般的に定められている規定を紹介します。ただし、自治体によって異なる規定を設けている可能性もあるため、実際にキュービクルを設置される際にはお住いの地域の条例を確認してください。
キュービクルに関連する火災予防条例で定められた離隔距離について、以下の表にまとめました。これにより、キュービクルの設置時に火災予防の観点から必要な離隔距離がわかります。
項目 | 離隔距離基準 | 説明 |
---|---|---|
建物との離隔 | 最低1.0m以上 | キュービクルと建物の間に十分な距離を保ち、火災時の延焼リスクを低減するため。 |
可燃物との離隔 | 最低1.0m以上 | キュービクルの周囲に可燃物がないようにし、火災リスクを減少させる。 |
他の設備との離隔 | 最低0.5m以上 | 隣接する設備や配管からの安全な距離を保ち、火災時の被害を最小限に抑える。 |
防火壁との離隔 | 必要に応じて設置し、防火壁から最低0.5m以上 | 火災の発生源と防火壁の間に離隔を設け、火災の拡大を防ぐ。 |
風通しの良い場所の確保 | 周囲に障害物がないこと | 火災時の煙や熱がこもらないよう、適切な換気ができる場所に設置。 |
通路との離隔 | 最低1.2m以上の通路幅を確保 | 火災時に避難や消火活動が迅速に行えるよう、十分な通路幅を設ける。 |
消火設備とのアクセス | 消火器や消火栓が容易にアクセスできる場所に配置 | 火災発生時の迅速な対応を可能にするため、消火設備との距離を考慮。 |
緊急避難経路の確保 | 出入口から最低1.5m以上の離隔 | 緊急時に迅速な避難が可能なよう、キュービクルの設置位置を調整。 |
この表は、キュービクルの火災予防に関連する離隔距離基準を示しています。これらの基準は、キュービクルの設置時に火災リスクを低減し、火災発生時の被害を最小限に抑えるために重要です。また、地域ごとに条例が異なる場合があるため、設置前に該当地域の条例を確認することが推奨されます。
火災予防条例ではキュービクルを屋外に設置する場合は「建築物から 3m以上の距離を保つ」ことが定められています。 ただし,「不燃材料で造り,又はおおわれた外壁で開口部のないものに面するときはこの限りではない」とされており、該当する場合は例外です。
また、消防庁告示第7号「キュービクル式非常電源専用受電設備の基準」に適合するキュービクルにも適用されません。この基準に適合するキュービクルを一般に消防認定品と呼んでいます。
キュービクルの周囲には1m+保安上必要な距離をとることとされており、こちらは屋内・屋外を問わず守る必要があります。なお保安上必要な距離とは、人の通行に支障をきたさない距離とされており、実際の距離は所轄消防署に確認が必要です。
これらの規定は、火災発生時の延焼防止や避難経路の確保を主な目的としています。法令上の規定なのでコンプライアンス上も必ず守る必要がありますが、遵守することで、万が一の際により高い安全性を確保することができます。
高圧受電設備規程(JEAC 8011)で定められた離隔距離
高圧受電設備規程(JEAC 8011)では、電気設備の安全性確保を目的として、キュービクルを含む高圧受電設備の設置基準を定めています。キュービクルの主な離隔距離は以下の通りです。
離隔距離を確保する部分 | 離隔距離 |
点検を行う面 | 0.6m以上 |
操作を行う面 | (扉幅+保安上有効な距離)以上※扉幅:1m未満のときは1m※保安上有効な距離:人の移動に支障がない距離 |
換気口がある面 | 0.2m以上 |
溶接などの構造で開閉できない面 | 特に規定なし |
JEAC 8011で定められた離隔距離はキュービクルの運用・管理上必要な最低限の距離であり、できる限り余裕を持った設計とすることが理想です。
管理・運用上必要な離隔距離
法令で定められた最低限の離隔距離を遵守することは当然ですが、実際の管理・運用を考慮すると、さらに余裕を持った離隔距離が望ましいケースが多くあります。
必要な離隔距離は環境条件や設計思想、管理上の都合などで変わってくるため、「この場合は〇メートル」という風に一律に決めることはできません。しかし、概ねこのような理由で離隔距離が必要という検討ポイントがあります。以下に、離隔距離を検討する際の要素を紹介しますので参考にしてください。
メンテナンススペース
日常的な操作や定期点検に必要な作業スペースを考慮すると、キュービクルの周囲に少なくとも1.5〜2メートル程度の空間を確保することが望ましいでしょう。
十分なメンテナンススペースが確保できない場合、作業効率の悪化や無理な体制での作業による事故といった原因となります。
変圧器(トランス)の搬入・搬出経路
キュービクル内の機器が故障した場合や耐用年数を超えて計画的に交換する場合には、機器の搬入・搬出作業が必要となります。特にキュービクル内の機器で大きな変圧器を出し入れできるかは重要です。
変圧器の大きさは必要な電気容量によって変わってきますが、設置する変圧器の大きさに対し、1.2~1.5倍程度のスペースが確保できれば概ね出し入れできると考えられます。ただし、大型・大重量の変圧器では、人力での移動ができない場合もあり、条件によって必要なスペースは異なるので注意しましょう。
熱・騒音対策に必要な離隔距離
キュービクル内部の機器から発生する熱を効果的に放散させるため、周囲の壁や他の設備との間に十分な空間を設けることが重要です。JEAC 8011では0.2m以上とされていますが、空間が狭いと空気が滞留し換気の意味をなさないためさらに余裕を持ったスペースを確保することが望ましいでしょう。
また、変圧器は振動により音を発生させるため、キュービクルが騒音の発生源となることがあります。騒音対策として、隣接する居室等とできる限り離隔距離を設けることも有効です。
これらの要素を総合的に考慮し、個々の設置環境に応じた最適な離隔距離を決定することが、長期的な安全性と運用効率の向上につながります。
キュービクルの離隔距離を把握しておこう!
キュービクルの設置工事やその後の管理を円滑に行うためには、十分なスペースを確保することが重要です。一方で、敷地や建物の床面積には限りがあるため、キュービクルのようなインフラ設備のためのスペースはできるだけ節約したいという要求があります。
設計をする上では、各種要件の優先順位を考えながら適切な離隔距離を検討することが必要です。そのためには、キュービクルの離隔距離がなんのために必要か、どの程度あれば問題が起きないかというポイントを理解しておかなければなりません。
この記事をきっかけに、ぜひキュービクルの離隔距離の必要性について考えてみてください。
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