製造業や大規模小売店、オフィスビルなど、電力使用量の多い事業者にとって、電気料金は大きなコスト要因です。特に近年の物価高騰によって、電気料金の削減は重要な課題となっています。

このような状況下で注目されているのが、キュービクル（高圧受電設備）の導入です。キュービルの導入により、電気料金の大幅な削減ができる場合があるのです。

この記事では、特に電気料金の削減効果に焦点を当て、その計算方法や導入の判断基準について詳しく解説していきます。

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キュービクルの役割と高圧受電とは

まずは、キュービクルや高圧受電とは何なのか、基本的な内容を説明します。

低圧受電と高圧受電の違い

電力会社から電力を受け取る方法には、低圧受電と高圧受電の2種類の方法があります。

電力会社の送電線には、6,600Ｖを超える高圧の電気が流れています。これを電力会社の変電設備で低圧受電に変換してユーザーに送る方法が低圧受電です。一方で、6,600Ｖの高圧電力をそのまま受け取る方法を高圧受電と言います。

低圧受電は主に一般家庭や小規模店舗向けの契約形態で、使用電力50kW未満が対象です。これに対し、高圧受電は主に工場や大規模商業施設向けの契約形態で、使用電力50kW以上が対象となります。しかし、使用する電力は一定ではないため、実際にどちらの方法で契約するかは、電力会社との協議によって決定します。

高圧受電では、電力会社から受け取った電力をそのまま使用することはできないため、ユーザー側で受変電設備を設置して低圧電力に変換する必要があります。そのため、高圧受電には電気料金以外に受変電設備の設置及び維持管理の費用が必要です。しかし、電力会社に支払う電気料金は安価になるため、トータルでコスト削減となる可能性があるのです。

キュービクルとは

キュービクルは、高圧（6,600V）で受電した電力を、建物内で使用する低圧（100V/200V）に変換するための受変電設備の一種です。一般的に金属製のボックス型の設備で、その中に変圧器、開閉器、保護装置などの必要な機器が収められています。

工場製であるため品質が安定しており、施工性や安全性が高いなどのメリットから、小・中規模の受変電設備として、広く普及しています。

キュービクルは、一般の事業者が高圧受変電設備を設置する場合に、最初の選択肢となる設備と言えるでしょう。

キュービクルとは？意味や役割・メリットなど、わかりやすく解説します！

キュービクル導入による電気料金の節約効果

一般的に低圧受電より高圧受電の方が電気料金の単価が安く設定されています。そのためキュービクルを導入して高圧受電にすることで電気料金が節約できるといわれるのです。

しかし、実際に電気料金が節約できるかどうかは電気の使用状況によって異なります。それでは、キュービクルを導入して高圧受電にすることで、電気料金がどのように変わるのか見てみましょう。

電気料金の基本的な計算方法

まずは、電気料金について考えるために電気料金の基本的な計算方法を説明します。電気料金計算の考え方は基本的に以下の通りです。

基本料金（単価×契約容量）＋電力量料金（単価×使用電力量±燃料費調整額）

基本料金は（単価×契約容量）ではなく、契約容量ごとにあらかじめ金額が定められている場合もあります。また、各単価は使用電力量や季節などによって変動する場合もあります。

このため、電気料金の比較を行うためには基本の計算式だけでなく、プランごとの特徴も把握しておく必要があります。

また、これに加え「再生可能エネルギー発電促進賦課金（再エネ賦課金）」が加算されます。しかし、再エネ賦課金は国の制度であり、電力会社や契約プランによる違いはほとんどないため、電気料金の節約を考える際には無視してもよいでしょう。

低圧受電と高圧受電の電気料金の特徴

近年では電力自由化により契約ができる電力小売会社も複数選択でき、電気料金には様々なプランが登場しています。ここでは東京電力の一般的なプランを例に低圧受電と高圧受電の電気料金の計算方法について比較します。

低圧受電で電灯電力と動力電力を契約する場合、従量電灯Cと低圧電力が最も一般的な組合せでしょう。

従量電灯Cでは、電力量料金の単価は「120kWhまで」「120kWhをこえ300kWhまで」「300kWhを超過」の場合に分かれており、使用電力量が増えるごとに単価も上昇する仕組みとなっています。そのため、使うほど高くなるということです。

低圧電力では、電力量料金の単価が「夏季」と「その他季」に分かれており、電力消費が増加する夏季の方に価格が高くなる仕組みとなっています。

さらに、従量電灯C・低圧電力ともに、事前に決定した契約容量に応じた基本料金が必要です。

高圧受電で最も一般的な高圧受電A（契約電力500kW未満）でも、料金計算の基本的な考え方は同じです。

高圧受電Aでは、低圧電力と同じく、電力量料金の単価が「夏季」と「その他季」に分かれており、夏季の料金が高く設定されています。また、基本料金は実量制と呼ばれる方式が採用されており、過去1年間の電気の使用状況を確認し、最も電力を使用した月の電力量を元に計算されます。このため一時的に大量の電気を消費すると、その後1年間電気料金が高くなるという問題があるので注意が必要です。

実際の低圧受電と高圧受電の電気料金比較

それでは、具体的な例を元に実際の低圧受電と高圧受電の電気料金を計算して比較してみましょう。

なお、電気料金の計算は2025年2月時点の東京電力の公表単価を使用し、燃料費調整額と再エネ賦課金は考慮しないものとします。シンプルに電気料金の節約効果を比較するため、一部の計算を省略しており、実際の電気料金とは異なりますがご了承ください。

ここでは、具体的な例として、従量電灯Cで100A（10kVA相当）契約して1ヶ月あたり2,000kWh使用し、さらに低圧電力で40kWの契約をし、1ヶ月あたり8,000kWh使用しているものします。この場合の電気料金は以下の通りです。

これを高圧受電に切り替えたとしましょう。単純化して50kW契約で10,000kWh使用したとします。ただし、高圧受電ではキュービクルで電力を変換する際にロスが発生するため、ここでは電気使用量を5％増として計算します。

このように、実際に電気料金を計算して比較することにより、高圧受電の方が低圧受電よりも電気料金が安価になることがわかるでしょう。特に高圧受電では使用電力量に応じた電力量料金の単価が安くなっているため、使用電力量が多くなるごとに電気料金の節約効果は大きくなります。

キュービクルの導入を検討する場合は、現在の契約容量や毎月の電気使用量を確認して、高圧で契約した場合の料金シミュレーションを行いましょう。

キュービクルの導入にかかるコスト

キュービクルは大型の電気設備であるため、導入には大きなイニシャルコスト・ラニングコストが必要です。電気料金の節約効果よりも、キュービクルの導入にかかるコストの方が大きければ、トータルでコスト増となってしまいます。そこで、キュービクルの導入にかかるコストについて簡単に説明します。

キュービクルの設置にかかる費用

キュービクル本体の価格は、設備の規模や仕様によって大きく異なりますが、一般的な仕様であれば、概ね電気容量に比例します。

低圧受電にするか高圧受電にするか検討する場合、対象となるのは50kW～100kWの小規模タイプでしょう。50kW～100kWのキュービクルでは、本体価格が200万円程度となります。

さらに本体価格とは別に設置工事費用が必要です。設置工事の金額は、設置場所の環境や大型機器の搬入経路の有無などによって大きく変わりますが、本体価格の50%～100％程度を見込む必要があります。

このため、キュービクル導入の初期費用には少なくとも300万円～400万円の費用がかかると考えておきましょう。

キュービクルの設置・交換前に知っておきたい！本体価格・設置費用から納期まで

キュービクルの維持管理にかかる費用

キュービクルは重要な電気設備であるため、設置者に対して適切な管理が義務付けられています。一定の資格を満たした主任技術者を選任し、保安規定を定め、月次・年次の点検を実施するなどの対応が必要です。

大企業や大きな工場などでなければ、自社に専門の技術者がいないことが多く、保安協会などの外部機関に委託する方法が一般的です。

小規模なキュービクルの場合は、年間の委託費用として15万円から25万円程度が相場でしょう。また点検で不良が見つかった場合は、機器の交換や修理により、追加の費用が必要となります。

キュービクルの耐用年数内でのコスト削減効果

キュービクルの耐用年数は一般に15年～20年と言われています。このため、定期点検の結果なども確認しながら、計画的に更新をすることが必要です。

キュービクルの法定耐用年数と実際の更新時期を解説

キュービクルの導入によりコスト削減を図る場合は、更新までの期間に投資したコストを回収できなければなりません。

例えば1年間に５０万円の電気料金削減効果があった場合、20年間で1,000万円の節約ができたことになります。一方、イニシャルコストで400万円、ランニングコストで400万円かかったとすると、トータルでのコスト削減効果は800万円ということになります。

このように、電気料金の削減効果はキュービクルのライフサイクル全体で計算する必要があります。

キュービクルの導入で電気料金が節約できるケース

キュービクルの導入で電気料金が節約できるかどうかは、電気の使用状況によって異なります。ここでキュービクル導入により電気料金が節約できる可能性が高いケースを紹介します。

高圧受電にした場合に契約電力が50kWを超えるケース

電力会社の規約では、契約電力が50kW未満の場合は低圧受電、50kW以上の場合は高圧受電となっています。しかし、実際には電気の使用料は一定ではないため、低圧受電の状態で少しずつ容量アップし、50kWに相当する電力を低圧受電しているケースがあります。

また、1つの需要場で電灯電力・動力電力の2種類の電気契約があり、合わせると50kWに相当する電力を使用している場合もあります。高圧受電では、契約が一本化されるため、契約電力が50kWを超える可能性が高いでしょう。

もちろん契約電力だけでなく、毎月使用する使用電力量や季節ごとの使用量のムラなど、様々な条件によるため、電気料金をシミュレーションしてキュービクルの導入を検討しましょう。

高圧一括受電により節約できるケース

マンションなどでは、住戸ごとに電力会社と契約して低圧受電する方法が一般的です。

しかし、住戸数の多いマンションであれば、建物全体で50kW以上の電力を使用しているかもしれません。その場合、管理組合や管理会社がキュービクルを設置し、一括して高圧で電力を購入し、キュービクルで変電した電力を各住戸に配る方法があります。

これが高圧一括受電です。高圧一括受電の導入によって電気料金が節約できる可能性があります。

キュービクルの導入で電気料金を節約できる可能性はある！

キュービクルの導入で電気料金を節約できるケースはそれほど多くはありません。しかし、条件があっていれば十分に節約できる可能性はあります。

キュービルの導入は、確かに大きな初期投資を必要としますが、長期的な視点で見れば大きなコストメリットが期待できます。ただし、導入に際しては、単に電気料金の削減だけでなく、設備の維持管理や将来的な電力需要の変化なども考慮に入れることが必要です。

キュービクルの導入は、自社の状況に合わせて慎重に検討を進めることをおすすめします。また、具体的な導入検討の際は、専門家への相談も有効な手段となるでしょう。

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