事業を運営していると、キュービクル(受変電設備)の移設が必要になる場面に遭遇することがあります。
- 建物の改修・増築時:オフィスや工場の拡張工事に伴い、キュービクルが邪魔になる
- レイアウト変更:敷地内の配置を見直す際、キュービクルの位置も変更が必要
- 工場や事業所の移転:同一敷地内や近隣への移転時に既存設備を移設
キュービクルの移設は専門的な知識と法的手続きが必要な工事です。この記事では、初めてキュービクル移設を検討される企業担当者の方に向けて、移設の流れ、費用などについて説明します。
キュービクル移設の基礎知識
まずは、キュービクルの移設とはどのようなことか簡単に説明します。
そもそもキュービクルとは?
キュービクルは、高圧で供給される電力を建物内で使用できる低圧に変換する「受変電設備」を金属製の箱に収めたものです。
契約電力が50kW以上の施設では、電力会社から高圧(6,600V)で電気が供給されるため、キュービクルで100Vや200Vに変換する必要があります。
工場、商業施設、オフィスビル、病院など、電力使用量が多い施設に設置されています。
キュービクルの移設とは?
キュービクルの移設は、言葉の通り、既存のキュービクルを別の場所に移動させることです。しかし、キュービクルは建物全体で使用する電気を供給する重要な設備のため、単にキュービクルを運搬すればよいというものではありません。
移設には現地調査、設備の解体・搬送・新基礎工事・再組立・配線変更といった多くの工程や行政への申請手続き、電力会社との協議などが必要です。また、工事中は電力供給が停止するため、仮設キュービクルの設置なども検討しなければなりません。
新規で導入するより費用面でメリットがある場合もありますが、耐久性や工事コストも総合的に考慮する必要があります。
キュービクルを移設できる要件
キュービクルの状態や使用条件によっては、移設しようと思ってもできないケース、できてもデメリットが大きいケースがあります。
キュービクルが移設できる主要な要件は以下の通りです。
- 設備の老朽化が進んでいない
- 主要機器(変圧器、開閉器など)が正常に動作している
- 移設先の環境に適合している
- 法定点検を適切に受けている
そもそも、キュービクル自体が劣化しておらず、移設後も当面使用できる必要があります。移設工事にも大きな費用がかかるためすぐに使用できなくなるキュービクルを移設してもメリットがありません。そのため、設備が老朽化しておらず、正常に動作していることはマストです。
キュービクルの法定耐用年数は15年とされていますが、適切なメンテナンスを行えば20〜30年使用できることもあります。ただし、耐用年数を超えた設備の移設は、移設後すぐに故障するリスクが高いため、専門家による詳細な診断が必要です。
また、キュービクルには、設置環境に応じて、屋内型・屋外型など、様々な仕様があります。設置環境に合わなければ移設することはできません。
これらの要件にあっていれば、移設によるコストメリットが発揮されるでしょう。
キュービクル移設の流れ・手順
キュービクル移設は複数の手続きと工程を経て行われます。全体の工期は約1〜3ヶ月程度が一般的です。
Step1:現状調査と移設可否の判断
専門業者による現地調査を実施します。
- 既存キュービクルの状態確認(外観、内部機器、絶縁抵抗など)
- 設置年数と保守履歴の確認
- 移設先の環境調査(スペース、搬入経路、基礎工事の要否)
- 移設可否の判断
この段階で移設が困難と判断された場合は、新設も含めた提案を受けることになります。
Step2:電力会社への届出・協議
キュービクルの移設には電力会社との事前協議が必須です。
- 移設先の受電点についての協議
- 電力供給停止・再開の日程調整
- 工事後の設備が基準にあっているか審査
電力会社の審査や現地確認には時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールが必要です。受電店の変更などにより、電力会社側の工事が大掛かりになる場合には、工事が数か月先になることも珍しくありません。
Step3:消防署や自治体への手続き
キュービクルの移設には以下の手続きが必要になります。
- 消防署への設置届
- 自治体等への建築基準法に関わる届出
- 電気事業法に基づく経済産業省への届出
手続きの詳細は自治体の条例や所轄消防署の判断によって異なるため、事前に確認しておくと安心です。
Step4:工事業者の選定と見積もり
電気工事業者から見積もりを取得します。特定の業者が決まっていない場合は、業者の選定も重要です。できる限り複数の業者から見積もりを取得し、比較検討しましょう。
見積もりの比較は非常に重要です。見積もりのポイントは、記事の後半で説明します。
Step5:停電計画の立案
キュービクル移設工事では、必ず停電が発生します。そのため、停電計画を策定し、事業に影響がないようにしなければなりません。
- 停電可能な日時の選定
- 停電時間の最小化
- 社内関係部署への周知
- 取引先やテナントへの事前通知
- 必要に応じて仮設キュービクルなどを準備
特に、停電ができない場合の対応は費用も掛かり計画も複雑になるため、事前にしっかりと確認しておく必要があります。
Step6:撤去・移設工事
実際の工事は以下の流れで進みます。
- 停電作業:電力会社からの送電停止
- 既存設備の撤去:ケーブル切断、キュービクル本体の取り外し
- 運搬:クレーン車やトラックでの移動
- 基礎工事:移設先での基礎コンクリート打設
- 据付工事:キュービクル本体の設置、水平調整
- 配線工事:電力会社側および建物側への配線接続
- 接地工事:アース工事の実施
簡単に書いていますが、移設工事のメインとなる部分で、見積もり金額の多くを占める部分です。
Step7:電気主任技術者による検査
工事完了後、電気主任技術者による各種検査を実施します。
- 絶縁抵抗測定
- 接地抵抗測定
- 保護継電器試験
- 各機器の動作確認
検査結果が基準値を満たさない場合は、再調整が必要になります。検査に合格すれば、いよいよ電力の供給を始めることができます。
キュービクル移設の費用とコスト削減のポイント
キュービクル移設の費用は、設備の規模や移設距離、工事の難易度によって大きく変動します。そのため、工事費を把握するためには専門業者に見積もりを依頼しなければなりません。
しかし、業者の言い値では、適切な価格なのか判断できないでしょう。そこで、適切な価格を見極め、コストを削減するためのポイントを紹介します。
複数社からの見積もり取得
少なくとも3社以上から見積もりを取り、内容を比較しましょう。複数の見積もりを比較することで工事内容や価格が適切か判断する手がかりとなります。
比較の際にはそれぞれの工事業者から工事内容をしっかりとヒアリングし、見積条件が一致していることを確認しましょう。
また、業者選びは価格だけで決めてはいけません。安すぎる業者は技術力や保険加入状況に問題がある可能性もあります。
それでは、複数社の見積もりを比較する際のチェックポイントを項目別に説明しますので参考にしてください。
前提条件・工事範囲
敷地内移設か遠方への移転か、輸送距離や移設先の設置条件(屋上・地上・屋内外)といった前提条件が各社同一前提になっているか確認します。
また、移設する既設キュービクルはそのまま使用できるのか、一部機器の交換や修理が必要かなども重要なポイントです。
解体・撤去、搬出入、再据付、高圧・低圧配線変更、接地工事、試験、申請・届出などの作業範囲が各社とも過不足なく揃っているかも確認しておきましょう。
それぞれの見積もりを並べて、項目に差がある場合は、どのような内容が違うのか、なぜ違うのかをしっかり確認しておくことが大切です。
見積内訳・金額の根拠
主な費目(解体費、搬送費、再設置費、設計・申請費、仮設電源費、諸経費など)が分かれて記載され、さらに各項目の内訳が明確になっているかを確認します。項目ごとに一式の金額が載っているだけの見積もりでは、精査のしようがありません。
また、複数社を並べて、項目ごとに極端に高い、又は安い項目があれば理由を確認しておきます。安いなら良いと思いがちですが、重要な項目が抜けていたり、本来推奨される手順が省略されたりしている可能性もあります。
停電・仮設電源・工程
キュービクルの移設工事では、工事中に電気が使用できない期間が発生します。使用中の施設での停電では、停電時間の調整や仮設電源の準備が必要になるでしょう。
そこで、停電時間や工事日数、夜間・休日作業の有無など、工程条件が見積もりに織り込まれているか確認しておきます。建物を止められない場合の仮設キュービクル・仮設電源の有無と、その費用も重要です。
諸経費の内訳確認
見積もりで見落としがちなのが諸経費(仮設費・管理費・諸手続き費用など)です。具体的な工事の金額はしっかりと確認しても諸経費は何を確認してよいかわからないということもあるでしょう。
しかし、電力会社との協議・供給点変更・工事負担金など、事前手続きと発生しうる費用の扱いが明確か、自治体等の行政機関への届出は見積もりに含まれているかなど、事前に確認しておく必要があります。項目が抜けていれば、工事中に追加費用が発生することになります。
コスト削減のポイント
キュービクルの移設工事は、大掛かりな電気工事が必要となります。そのため工事費用も高額になりがちです。少しでもコスト削減するためのポイントを紹介します。
新設工事との比較検討
まず最も重要なことは、新設工事との比較検討です。移設では、古いキュービクルを使用するため、移設後の設備の故障などデメリットも生じます。
移設と新設(更新)を比較検討し、老朽が進んだ設備は移設ではなく更新を選ぶことで、修理や短期再更新による二重投資を避けなければいけません。
また、最新のキュービクルに更新することで電気料金が下がる可能性もあります。更新により一時的なコストが高くとも長期的にはコスト削減となる可能性もあるのです。
既存キュービクルの状態をしっかりと見極め、移設前後の使用電力などの条件が適切かを確認し、移設工事にコストメリットがあるのかを判断しましょう。
契約容量の見直し・実負荷の再検討
現在の契約電力・実負荷を精査し、トランス容量や回路構成を適正化することで、過大設備を避けて工事費・保守費を圧縮することができます。
また、設備容量は移設後の電力会社との需給契約における基本料金に関ってきます。大規模な施設では、基本料金も高額になるため、コスト削減の効果は少なくありません。
停電計画の最適化
キュービクルの移設工事では、工事中に停電が発生するため、停電計画を立て事業への影響が出ないようにします。しかし、停電中の対応にはそれなりのコストがかかるため、どこまで停電の影響を受容できるか検討し、コスト削減を図ることも重要です。
例えば、停電時間の最適化と工程調整により、夜間・休日割増や長時間待機費を抑えることができるかもしれません。
仮設電源・仮設キュービクルの設置には高額な費用がかかるため、スケジュール調整や負荷切替で仮設規模を小さく、あるいは不要にできないかを検討しましょう。電力が使用できる範囲を限定し、低圧受電できる50kW未満にすれば、仮設電源の工事費を大幅に縮小することができるはずです。
キュービクルの移設は慎重に!
キュービクルの移設は、単なる設備の移動ではなく、法的手続き、電力会社との調整、専門的な電気工事を伴う複雑なプロジェクトです。
キュービクル移設について不明な点がある場合は、電気主任技術者や専門の電気工事業者に相談することで、最適な方法を提案してもらえるでしょう。
キュービクル移設は、思い立ってすぐに実施できるものではありません。建物の改修や移転の計画が決まったら、できるだけ早い段階で専門業者に相談することをおすすめします。
