現代において、電気は最も重要なインフラの一つです。安定した電力供給は事業継続の生命線となります。
そのため、電気の供給に欠かせないキュービクル(高圧受電設備)の適切な設置と管理は、施設運営において極めて重要な要素となっています。
この記事では、一般ユーザーの方にもわかるよう、キュービクルの必要性から設置工事の内容、コストなど、基本的な情報をまとめて説明します。
なぜキュービクルが必要なのか
キュービクルは、大規模な電力を安全かつ効率的に受電・配電するために不可欠な設備です。では、キュービクルとはいったいどんな役割を果たしているのでしょうか。
電力会社との契約電力が50kW以上になる場合、規定により高圧受電が必要になります。高圧受電とは、電力会社から6,600Vという高圧の電気を直接受け取る方式です。
高圧電力はそのまま使用することはできないため、低圧電力に変圧する設備の設置が必須となります。これを、高圧受変電設備といい、なかでも最も一般的に使用されている設備がキュービクル式高圧受変電設備です。
一般的なオフィスビルを例にとると、延床面積が1000㎡を超える場合や、従業員が100名を超える規模になると、キュービルの設置が必要となることがほとんどです。また、工場や商業施設では、大型の製造設備や空調設備の導入に伴い、キュービクル工事が必要となるケースが多く見られます。
このように、事業用の建物では、一部の小規模なものを除き、多くの建物でキュービクルが設置されているのです。
どんな時にキュービクル工事が必要か
キュービクルの工事が必要となる場合は、主に以下の3つの場合があります。
- キュービクルを新規に設置する工事
- 既存キュービクルを更新・交換する工事
- キュービクルをメンテナンス・修理する工事
それぞれの工事について簡単に説明します。
キュービクルを新規に設置する工事
新しく建設する建物で、50kW以上の電力を使用する場合は、キュービクルを設置し、高圧受電を行います。また、中古の建物を購入したり、テナントなどに入居したりして、それまでと違う用途で使用するため、使用する電力量が増加し、キュービクルが必要となる場合もあります。
キュービクル設置は、設計段階からの慎重な検討が必要です。まず重要なのは、施設の用途に応じた電力需要の正確な予測です。オフィスビルであれば、テナントの業種や事業形態、使用する設備の種類と容量を詳細に検討する必要があります。
設置場所の選定も重要な検討事項です。キュービクルの設置には、周囲に十分なメンテナンス用のスペースが必要となります。また、防火区画との関係や、換気・排水設備の配置なども考慮しなければなりません。
新築の建物であれば建物全体の計画で調整ができますが、既存の建物に新たに導入する場合は与えられた条件で工事を行うため、より慎重かつ詳細な調査と検討が必要です。
既存キュービクルを更新・交換する工事
電気設備は、経年により劣化し、故障やそれに伴う事故の原因となるため、計画的な更新が必要です。キュービクルは一般的に20年を経過した程度で更新を検討します。
また、設置からの年数は短くても、故障により停止したり、点検時に大きな不具合が発見されたりすると、交換が必要となることもあります。
キュービクルは、高圧電力を扱う重要な電気設備です。ひとたび不具合が発生すると、停電により事業が停止する、火災などの事故、さらには周辺地域に波及する大規模な事故のリスクもあるのです。
そのため、キュービクルの劣化が見られた場合、早急な工事が必要です。設備の老朽化は、突発的な停電や事故のリスクを高めるだけでなく、電力効率の低下にもつながります。
キュービクルをメンテナンス・修理する工事
キュービクルは、電気設備の中でも高額な設備であり、設置や取替にかかる工事費用も大きなものとなります。そのため、適切にメンテナンスを行い、できる限り長く安全に使用することが大切です。
キュービクルは、本体の金属箱の中に、様々な電気機器が納められた構造になっています。キュービクル全体の寿命に対し、内部の機器はそれぞれ個別の耐用年数があります。そのため、計画的に取り替えることで、キュービクルを安全に保つのです。
また、キュービクルの保守管理には、法令で定められた定期的な点検が必要です。点検で異常が見つかった場合は、適切な補修や部品交換などの対応が必要となります。
キュービクルは、メンテナンスを適切に行うことで、長期的なコストの削減、事故リスクの低下といったメリットがあります。そのため、メンテナンスは必要経費として正しく行いましょう。
キュービクルの工事の基本的な流れ
実際のキュービクルの設置・更新工事について、基本的な流れを具体的に説明します。
工事の準備段階
キュービクルの設置や更新を行う場合は、電気容量をはじめとしたキュービクルの仕様や設置場所、大型機器を搬入するための経路などを事前に調査し、しっかりとした計画を立てる必要があります。
- 電力使用量の調査を行い、必要な容量を決定する
- 周囲の環境や使用状況を確認し、必要な保護機能を決定する
- デマンド管理や再エネの利用など、付加機能を検討する
- 設置場所を確認し、耐候性の有無などを決定する
- 設置場所までの搬入経路や据付工事の方法を検討する
- 法規制や地域の規則と適合するか確認する
キュービクルを選定し、工事の計画を立てるには、様々な検討項目があり、専門的な知識が必要です。そのため、初期の段階から専門業者に相談し、工事の準備を進める必要があります。
また、既存のキュービクルがある場合は、運用・管理を担当する電気主任技術者に相談して、現在の使用状況や問題点などを共有しておきましょう。
基礎工事
キュービクルを設置するには、キュービクルを据え付けるための基礎が必要です。現場打ちのコンクリート製の基礎が一般的ですが、鋼製の基礎を使用する場合もあります。
新築の建物の場合は、建設工事の一環として建物の床と一緒に基礎を作ります。しかし、屋外に基礎を作る場合や、既存の建物にキュービクルを新設する場合は、新たに基礎を作る工程が必要です。
コンクリート基礎は、型枠と鉄筋を組み、コンクリートを流し込んで、1週間程度の養生期間をおいて作成します。また、屋外に設置する場合は、基礎を地面に埋めるため掘削も必要となり、さらに長期間の工事が必要です。
既存キュービクルの更新であれば、基礎はそのまま使用できる場合もあります。再使用する場合は劣化状況をしっかりと確認し、必要に応じて補強工事を行います。
キュービクル据付工事
キュービクルは、大型で重量のある電気設備のため、据付工事は大規模なものになります。基本的な流れは以下の通りです。
- キュービクル本体を設置場所まで搬入する
- 基礎の上にキュービクルを据え付け、ボルト・ナットなどで固定する
- 接地工事(アース)を行い、キュービクルに接続する
- 高圧ケーブル・低圧配線を接続する
キュービクルの搬入や据付工事は、設置場所によって工事方法が大きく異なり、工事の難易度やかかる費用も変わります。
例えば、屋外の車両を横付けできる場所に設置する場合は、搬入から据付までクレーンでスムーズに行える場合もあります。一方で、屋内の奥まった場所に設置する場合は、設置場所までの運搬も詳細な計画を立てて行う必要があり、工事の難易度も必要な費用も高くなります。
据付工事はキュービクル設置工事でも特に事前の調査や計画が重要となる工程と言えるでしょう。
試験・調整
キュービクルの据付が終わったら、各種の試験・調整を行い、安全に使用できるか確認します。
- 絶縁抵抗測定
- 保護継電器の動作試験
- 接地抵抗の測定
- 電圧・相回転の確認
これらの手順を省くと事故の原因となります。また、キュービクルの設置・運用には、電力会社や関係官庁への申請が定められており、試験結果を報告しなければならないこともあります。
安全な電気の運用のため、試験の実施は設置者の義務でもありますので、確実に実施しましょう。
工事期間と工事中の影響
工事期間は、基礎工事から運用開始まで通常2〜3週間程度かかります。規模が大きくなると、さらに長期の工事期間が必要な場合もあります。また、天候による工期の変更も考慮に入れる必要があります。
キュービクルの更新では、停電を伴うため、事前に入居者や関係者への周知が必要です。工事期間中の長期の停電ができない場合は、仮設キュービクルを設置し、工事中の電源を確保します。
仮設キュービクルを設置する場合は、仮設キュービクルの設置・撤去にさらに工事が必要になる他、複数回の電源の切り替えを行うため、工事期間は長期化します。
使用中の建物でのキュービクルの更新は、影響が大きいため、工事期間は事前にしっかりと確認しておきましょう。
業者選定のポイント
キュービクル工事の見積もりは、必ず複数社(最低3社以上)から取得することをお勧めします。見積書の比較では、単純な価格だけでなく、提案内容の質や工事の範囲を慎重に検討する必要があります。
見積もりの確認ポイント
見積もりを比較する際に、特に重要な確認ポイントは以下の通りです。
- 機器の仕様と品質
・メーカーと型式の詳細
・電気容量や付加機能の有無
・保証期間と条件
・省エネ性能の数値 - 工事内容の詳細
・施工範囲の明確な記載
・仮設計画の具体性
・産業廃棄物の処理方法
見積金額の内訳は、機器費用、工事費用、諸経費、保守費用などが明確に区分されているかを確認します。記載内容ができる限り具体的で、透明性のある内容になっていることが重要です。
機器の仕様や工事内容は、専門的な知識がないと理解が難しいものです。わからない点は業者に積極的に確認しましょう。
また、見積書に記載されていない追加費用が発生する可能性がないかどうか、事前に確認しておくと安心です。
工期と影響
キュービクル工事の工期は、工事の規模や内容によって大きく異なります。新設工事の場合は通常2~3週間、更新工事では1~2週間程度が標準的な工期となります。ただし、これは実際の工事期間であり、設計や許認可の取得、機器の製作期間は含まれていないことに注意が必要です。
なお、キュービクル本体は工場で製作したものを現地に搬入して設置します。工場での制作期間は、キュービクルの仕様によって異なりますが、概ね1~6ヶ月かかります。
停電を伴う工事の場合、その影響を最小限に抑えるための綿密な計画が必要です。全館停電が必要な場合でも、仮設キュービクルを利用したり、既設キュービクルと新設キュービクルを併用したりといった方法で、通常は4~8時間程度で完了できるよう計画を立てます。
停電ができない重要な設備がある場合は、無停電に対応できる仮設電源の確保や、工事の分割実施なども検討する必要があります。
このような対応は高度な技術力が必要なケースも多いため、どこまで対応してもらえるか、発注前にしっかりと打ち合わせを行いましょう。
コスト削減のポイント
キュービクルは電気設備の中でも高額な設備です。そのため、できる限りコストを削減したいと考えるのは当然でしょう。
そこで、キュービクル設置工事の費用感と、コスト削減に有効な手法を紹介します。
キュービクル工事の費用感
キュービクル工事の費用は、設備の規模や仕様によって大きく変動します。新規設置の場合、一般的な費用の目安は以下の通りです。
最大電気容量 | 参考規模 | 価格帯 |
50~100kVA | コンビニ、飲食店など | 300万円~800万円 |
200~300kVA | 小規模の施設、スーパー | 600万円~1,500万円 |
500kVA以上 | 大型スーパー、工場など | 1,200万円~3,000万円 |
これらの費用は、建物の構造や設置場所の条件、工事の難易度によっても変動するためあくまで目安と考えてください。
また、最新の省エネ機器の採用や、付加機能の追加なども、費用に影響を与える要因となります。
省エネ対策との組み合わせ
キュービクル更新の際は、省エネ性能の高い機器の採用を検討すべきです。初期投資は増加しますが、電力損失の低減により、長期的にはコストメリットが得られる可能性があります。
変圧器については、トップランナー制度により年々効率の高い製品が登場しています。また、力率改善装置の設置も、電力料金の低減に効果があります。
高圧受電では、最大使用電力によって基本料金が決まるため、デマンド監視装置を導入し、使用する電力を分散させることで基本料金を安くすることも可能です。
ただし、これらの手法は電気の使用状況によって効果が変わります。現在の電気の使用状況を確認し、効果的な方法を検討しましょう。
保守管理の最適化
キュービクルの長寿命化とコスト削減のためには、適切な保守管理が不可欠です。定期的な点検と予防保全により、突発的な故障を防ぎ、修理費用の抑制につながります。
キュービクル内の各機器は、それぞれ耐用年数が設定されており、実際の劣化の状況も異なります。そのため、点検時に劣化状況を確認し、機器ごとに計画的に取替を行うことで、キュービクルを長く安全に使用することができるのです。
キュービクルの設置工事は専門家に相談を!
キュービクルの工事は、施設の電気設備の要となる重要な工事です。事前調査や検討をしっかりと行い、計画的かつ効果的な工事の実施を目指しましょう。
キュービクルは、専門的な設備のため、一般ユーザーではなかなか判断できないポイントも多いものです。不明な点がある場合は、専門家への相談を躊躇せずに行ってください。
特定の業者が決まっていない場合は、複数の業者にプランニングと見積書の作成を依頼し、比較検討する方法も有効です。
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